amrita by Banana Yoshimoto _ 2
「話した時のおじいちゃんの目をよく見なさい、って。声の出し方を、部屋の雰囲気を、よく覚えておきなさい、
もしおまえたちが大切な誰かにこの話しを伝えるとき、今の私より少しでも自身のない目や声をしているようなら、部屋の感じが
今より少しでもよそしょそしく感じられたら、話さないほうがいいよ。伝えるのは話なんかじゃないんだ。今の私の、
魂の状態を、丸ごと伝えることが大事なんだ。今、ここと同じか、それ以上の状態のときだけ、言ってもいい。ってね。
私はよく、観察したの。家族みんな、おじいちゃんとおばあちゃん、私の両親、私、妹、弟二人。部屋は力に満ちた感じだった。
明るいような、暖かいような。和菓子屋が少し傾きかけていたけど、それくらいで、それもそんなに深刻ではなかった。
夕食の後で、みんなくつろいでいたわ。おじいちゃんはいつもより光った目で、いつもより深い声で話した。何があっても、この人がいれば
大丈夫、っていう感じがした。よくおぼえておこう。と思った。その感じを丸ごと。言葉でもなくて、順番でもなくて、よく見たり聞きすぎると
忘れちゃうような、ぎゅっと胸にいれて、もうむやみにとり出さないようにして、鮮度を保っておこうって。」
食べ物おいしい?食べ物の味を、ちゃんと感じてる?
朝起きると楽しい?一日が楽しみ?夜寝るとき、気持ちいい?
友達が前から歩いてきます。楽しみ?面倒?目に映る景色がちゃんと心にはいってきますか?音楽は?
外国のことを考えてみて。行きたい?わくわくする?それとも面倒?
明日が楽しみですか?三日後は?未来は?わくわくする?憂鬱?今は?今をうまくやってる?自分のこと気にいってる?
だめな日が何日続いてもたずね続ければいいの、その普通の勇気が、ある中心を作り始めるの。